Lecture 08第8回 – 2025年1月9日
- Lecturer
- 城 一裕
- Reporter
- 半田 壮玄
これは、2025年1月9日に行われた、城一裕さんによる講義におけるレポートである。城一裕さんは、現在九州大学芸術工学研究院 音響設計部門 准教授であり、メディアアート、音響学、インタラクションデザインを主な活動領域としている。日本国内においても、21世紀初頭から、メディアアート、オーディオビジュアル領域において活動しており、文化庁メディア芸術祭では、第18回にはアート部門審査委員会推薦作品として『The SINE WAVE ORCHESTRA』が受賞、第24回にはエンターテインメント部門審査委員会推薦作品として、「予め吹き込まれた音響のないレコード」が受賞するなど、数々の賞を受賞している。また、国外においても、メディアアートの最高峰のフェスティバルであるArs Electronicaにおいて、「The SINE WAVE ORCHESTRA」がPrix Ars Electronicaを受賞するなど、日本におけるメディアアートの最重要人物のひとりとしてあげられる。
私自身、NTTインターコミュニケーション・センター[ICC]にて展示されていた『断片化された音楽』という作品を見たことがあり、コンピュータ上で描いた波形を直接盤面に掘り込みそこから音響を発生させるといった、アナログな手法から音響を創造していく作品に強く影響を受けた。
今回の講義では、「21世紀初頭のオーディオビジュアル」と題して、城さんがこれまでかかわってきた作品やソフトウェアの変遷、制作の裏話などを聴くことができた。
講義の冒頭では、久保田晃弘さんの『ポスト・テクノ(ロジー)ミュージック - 拡散する「音楽」、解体する「人間」』」という本が紹介された。ポスト・テクノロジーにおける音楽の歴史において、moogのシンセサイザーの登場によって、音響合成が飛躍的に活動的になったという歴史、コンピュータ上でDSPプログラムが実用的なレベルで動くようになったことで実現したリアルタイム・シンセシス環境の民主化によって、五線譜モデルに基づくMIDIの扱い方が変化し、MIDIモデルからの脱却を促した一連の流れなどを知ることができた。またそうしたMIDIモデルからの解放と、リアルタイムシンセシス環境の民主化によって、それまでアカデミックな分野の人のみに開放されていた音響分野が、異なる分野にいる人々の参入を促し、様々なジャンルの人の手によって進展してきた歴史が語られた。
またこの本に記載されているデジタル・エラーについても言及された。現在のメディアアート/オーディオビジュアル、エレクトロニカにおいて多用されている表現であるグリッチの概念が、CDのスクラッチ音やスキップ音などから音響的なビートを作ったマーカス・ポップの音楽の作り方から派生したものである過去や、そうしたデバイスの設計段階では想定されていなかった使われ方や操作によって偶然発見された逸脱的挙動、すなわち「エラー」という概念の成立に関しても講義の中で語られた。
さらに講義の中では、実際に城さんが大学時代に研究室で使用していたApple社のPowerBook G3を実際に起動させ、当時使用していたソフトウェアの挙動を実践的に紹介する場面もあった。その中では、MIDIを扱う自動返送シーケンスソフトウェアの「M」の紹介や、リアルタイムの映像入力に対してエフェクトをかけることができる「IMAGE/INE」の紹介があった。こうしたソフトウェアは現在においては、TouchDesignerやJitterなどで簡単に作ることができる技術ではあるが、2000年初頭の技術の中でそうした試みがソフトウェアとして現在も残っていることに感動した。
そうした城さんが当時使用していたソフトウェアの紹介の中でも、特に印象に残っているのが、soundhackというソフトウェアである。このソフトウェアは、なんでも音として扱うことができるソフトウェアであり、どの形式のファイルでも、インプットすることで、そのファイルを音として変換できるものである。実践の中では、当時の卒業論文のWordファイルを実際に音楽データとして変換していた。特徴として、出力自体はノイズ的な音が出るのだが、そのノイズの構成のされ方や、インプットのファイルの要領による出力音声の長さの差などがとても面白く、印象に残った。当時このソフトウェアを使用して実験音楽を制作していたアーティストもいたという話を聞くことができた。
講義の後半では、様々なソフトウェアの紹介に並び、その当時のコミュニティや当時活躍していた方々に関してもお話を聞くことができた。
現在でも開催されている、音楽/音響ソフトウェアであるMaxのサマースクールである、MSP Summer Schoolの名簿には、私たちの憧れのアーティスト方の名前が載っていた。
また、Design By Numbers (DBN)というMITメディアラボにおいて開発されたグラフィックプログラミング環境に関する紹介の中で、John Maedaさんに関する紹介があった。その中で、「コンピュータで作るということは、イラストレーターのようなソフトウェアを使うことではない。コンピュータで作るということは、プログラムで作るということである。既存のソフトウェアを使うことは、コンピュータで何かをつくることではなく、開発者の手のひらで踊らされているだけである。」という言葉を紹介していた。
最後には、AEOという城さんと、EYEさん、澤井さんで制作していたパフォーマンス作品の制作の話や、作品のシステム実装に関してお話を伺うことができた。
講義を経た感想
本講義を受け、私自身で調べてきたメディアアート、サウンドアートにおけるこれまでの発展の流れをより詳細に知ることができてとても勉強になった。紹介されたソフトウェアやその裏側に携わっていた方がたがどのような心境で、どのような境遇の中で制作に励み、これまでの発展の歴史に加わっているのかを知ることができた。また、講義の中で紹介されたJohn Maedaさんの言葉である「コンピュータで作るということは、イラストレーターのようなソフトウェアを使うことではない。コンピュータで作るということは、プログラムで作るということである。既存のソフトウェアを使うことは、コンピュータで何かをつくることではなく、開発者の手のひらで踊らされているだけである。」という言葉は深く印象に残り、自分自身の制作に関して再考するきっかけとなった。テクノロジーが進化し、ラップトップ一台の中で、リアルタイムに情報処理が行え、様々なソフトウェアのリリースによって簡単にデジタル表現を行える現代において、そうしたソフトウェア依存の表現を多用するのではなく、本質的なデジタル表現の追及や、デジタル機器/コンピュータにおけるエラーの扱い方など、根本的な再認識、再考を行うべきであると深く痛感した。