Lecture 09第9回 – 2025年1月9日
- Lecturer
- 404.zero
- Reporter
- 芹澤 碧
今回このレポートで紹介する講義(2025年1月9日)は最終成果発表前の最後の講義となり、ゲストは404.zeroのAleksandr Letsius氏でした。404.zeroは、Aleksandr Letsius氏とKristina Karpysheva氏によるジェネレイティヴ・アートのアーキテクトおよびツールメーカーのデュオです。彼らはコーディングやモジュラーギアを駆使し、映像やサンプルフリーの音楽表現の限界を押し広げる魅力的なデジタルマテリアルを生み出しています。作品はライティングを用いたインスタレーションやオーディオビジュアルパフォーマンスの形式で発表されており、日本でもMUTEKへの出演やNTTインターコミュニケーション・センター[ICC]での展示、第21回文化庁メディア芸術祭アート部門審査委員会推薦作品に選出されるなど、多くの実績を持っています。今回のレポートを担当する芹澤もMUTEK.JP 2023で彼らのオーディオビジュアルパフォーマンス作品を実際に鑑賞し、その世界観に釘付けとなり、今でも印象に残っています。
今回の講義では、彼らがどのように作品を制作しているのか、実際に制作画面を見せながらその過程を詳しく解説してくれました。彼らは主にTouchDesignerというソフトウェアを使用しています。TouchDesignerはDerivative社が開発したビジュアルプログラミングソフトウェアです。リアルタイムの映像表現からインスタレーションの開発まで幅広く制作が行えることから、オーディオビジュアルアートやジェネレイティヴ・アートの分野でも多くのアーティストが使用しています。TouchDesignerは、多様な機能を持つオペレーターを組み合わせることで、視覚表現やシステムを構築できる点が特徴です。ちなみに余談ではありますが、Aleksandr氏は講義の初めに、自身の作品の紹介をプレゼンテーションするときにも、プレゼンテーション用のソフトウェアではなくTouchDesignerを使用していました。
興味深かった点の一つとして、彼らがTouchDesignerの開発環境をより良くするために独自のプラグインを開発していることが挙げられます。「PISANG」と「ZERROR」というプラグインを制作しており、今回の講義の中の制作の実演でも常にこの2つを使いながら進めていました。
「PISANG」は、TouchDesignerでの作業を効率化するためのプラグインであり、オペレーターの作成や設定変更、Pythonコードの検索などの機能を備えています。このプラグインを活用することで、オペレーターのパラメーターを任意の値に保存し、すぐに呼び出したり、オペレーターの組み合わせを登録したりすることが可能になります。これにより、制作のスピードを向上させることができます。
一方、「ZERROR」は、複数のオペレーターのパラメーターを一つのUIで管理できるプラグインです。TouchDesignerでは、ビジュアル制作の際にオペレーターのパラメーターを調整しながら視覚表現を作り上げますが、このプラグインを使うことで、それらの調整を一元管理しやすくなります。パラメーターの値の組み合わせをアセット化したり、オペレーターのパラメーターの値のステータスを保存したりすることができます。最終的にはこのプラグインを通して制作したUIをパフォーマンスに活用したり、制作したアセットや保存したステータスからタイムラインを作成したりすることも可能です。ZERRORのUIはモジュラーシンセのツマミのようなデザインになっており、モジュラーシンセを使用する彼らのパフォーマンススタイルとの一貫性を感じました。
Aleksandr Letsius氏は3D空間に照明を配置したシーンを制作する過程を見せてくれました。擬似的な照明の光のパターンを変化させることで、3D空間の雰囲気を大きく変え、映像表現を作り上げる様子を実演しました。第一線のアーティストの制作過程を知ることができる貴重な経験となりました。
講義を受けて感じたこと
今回の講義を受けて、制作のツールやソフトウェアとの向き合い方について改めて考えさせられました。彼らは単にソフトウェアを使用するだけでなく、自ら開発し、環境を最適化することで、よりスムーズかつ自由な表現を可能にしています。この姿勢は、自身の制作プロセスにおいても参考になる点が多いと感じました。特にソフトウェアのもつ欠点をそのままにするのではなく、ツールを制作することで、自分の表現の制作の仕方に合わせて拡張していく考え方は非常に重要だと感じました。「ZERROR」というプラグインに関しては単に制作を効率化するだけではなく、それがそのままパフォーマンスに使用するUIに使用できる、すなわちパフォーマンスの道具として使用できるところが、制作からアウトプットまでの流れのシームレスさを感じてとても参考になりました。
また彼らの最終的な作品のアウトプットの仕方として、実際の照明を用いたインスタレーションと映像表現を用いながらパフォーマンスを行うオーディオビジュアルパフォーマンスが挙げられます。彼らは映像表現の中でも照明を用いた光の表現を用いており、彼らの表現の一貫性を感じました。
この講義を通じて、制作過程の中から技術的な面だけでなく、制作における姿勢や哲学についても多くの示唆を得ることができました。今後、自身の作品制作においても、ソフトウェアやツールをただ使うのではなく、それをどう活用し、どのように独自の表現へとつなげていくのかを意識しながら取り組んでいきたいと考えています。制作の取り組み方にもそのアーティストの姿勢が現れるものであり、それが最終的なアウトプットのクオリティにも繋がっていくのだと学びになりました。
また講義が終わったあとに、Aleksandr氏から直接自分の制作内容と照らし合わせたTouchDesignerの扱い方をアドバイスしていただきとても貴重な経験となりました。自身はTouchDesignerで制作を行うことが多いため、以前から404.zeroの作品にはとても関心がありました。