Lecture 10第10回 – 2025年1月28日
- Lecturer
- Zachary Lieberman
- Reporter
- 綿貫 岳海
2025年1月28日。成果発表展示を終えた2日後にリモートにてZachary Lieberman(以下、リーバーマン氏)のレクチャーが行われた。私は大学生の頃に初めて触れたクリエイティブコーディングがOpenFrameworksであったため、このレクチャー会はとてもたのしみにしていた。
1. はじめに:アート、教育、商業の3つの柱
リーバーマン氏は、ニューヨークを拠点に活動するアーティストであり、教育者、研究者としても知られている。彼の活動は、大きく3つに分けられる。
- アート作品の制作
- 商業プロジェクト(企業とのコラボレーションやクライアントワーク)
- 教育活動(MITメディアラボの教授としての指導や、独立した教育プロジェクトの実施)
この3つをバランスよく取り組むことが彼のスタイルであり、それぞれの活動が互いに影響を与え合いながら進化している。彼は「教育」を単なる知識の伝達と考えるのではなく、創造性を育む場と捉え、学生たちに新しいアートの可能性を探求させることに重点を置いている。
2. コーディングの意義:「コードは現代の文化的表現」
リーバーマン氏は、近年のテクノロジーの進化に対して批判的な視点を持っている。特に、NvidiaのCEOが「子供たちはプログラミングを学ぶ必要がない」と発言したことに対し、強い反対意見を述べた。
彼は、コーディングは単なる技術ではなく、文化的な表現手段であり、現代のアートにおいて極めて重要な役割を果たすと考えている。コーディングを学ぶことは、単にソフトウェアを開発するためではなく、新しいアイデアや創造性を発揮するためのツールである。
「このプレゼンテーションは、コードへのラブレターだ。」
と彼は語り、コーディングを通じて表現できる可能性を熱く語った。彼にとって、コードはキャンバスであり、ブラシであり、言語である。そして、そのコードを使ってアートを生み出すことが、自身の創作活動の中心にある。
3. コードとの出会いとアートへの転換
リーバーマン氏はもともと、美術(絵画・版画)を学んでいた。しかし、大学を卒業後、仕事を得る必要があり、その過程で「Flash」というマルチメディアオーサリングツールと出会った。Flashは、簡単なスクリプトを記述することで、画面上のオブジェクトを動かすことができるツールだった。
彼は、ある日「x = x + 1」というコードを書くだけで、オブジェクトが画面上を動くことに感動した。これをきっかけに、コードを使ったアートに没頭するようになり、日々「スケッチ」を書き続ける習慣を持つようになった。
この「デイリースケッチ」と呼ばれる習慣は、彼の創作活動の中核をなすものであり、日常の感情やアイデアをコードで表現することを目的としている。例えば、「嬉しさと悲しさを同時に表現する」アニメーションや、「2Dのようで3Dに見える作品」など、視覚的にユニークな作品を生み出している。
4. インタラクティブツールの制作:アートを体験として捉える
4.1 自作ツールとその可能性
彼は、「ツールを作ること」そのものがアートであり、ツールを通じて他者が何を生み出すのかに興味を持っている。例えば、スマートフォンの加速度センサーを活用した3D描画ツールを開発し、それを使ったアート作品を制作している。
このツールを使えば、スマホを動かすことで3D空間に線を描くことができる。彼は、このツールをさまざまな人に試してもらい、どのような作品が生まれるのかを観察した。そして、その結果に驚かされることが多かったという。
5. 身体とアートの融合
5.1 身体の動きを視覚化するプロジェクト
彼の作品の多くは、「身体の動き」と「ビジュアルアート」の融合を試みたものが多い。たとえば、ニューヨーク・タイムズとのコラボレーションで、薬物依存症に関するプロジェクトを手掛けた。
このプロジェクトでは、元中毒者たちが語る「身体の感覚」をダンサーが再現し、その動きをソフトウェアでビジュアル化した。これにより、観客は依存症の苦しみを「身体を通じて」理解することができるようになった。この作品は、現在もリハビリセンターなどで使用されている。
参考:https://www.nytimes.com/interactive/2018/us/addiction-heroin-opioids.html
6. AR(拡張現実)の探求
リーバーマン氏は、拡張現実(AR)の可能性についても強い関心を持っている。特に、「ARを使って世界に何かを追加するのではなく、削除することもできる」という考えに注目し、「監視社会や情報操作」に関する考察を行っている。
また、「写真を撮影した場所に固定し、その場で閲覧できる」システムや、「現実世界の色彩をサンプリングし、それを別の場所に塗る」プロジェクトなど、空間とデジタル情報を結びつける試みを行っている。
7. 創作活動の哲学:「ノーと言うこと」と「世界はアイデアを求めている」
7.1 「ノー」と言う重要性
彼は、クリエイターが「ノーと言うこと」の大切さを強調している。すべてのプロジェクトに対して「イエス」と言ってしまうと、本当にやりたいことが見えなくなってしまうからだ。
「ノーを言うことが、自分の『イエス』を守ることにつながる。」
この哲学のもと、彼は慎重にプロジェクトを選び、自身の創作活動を維持している。
7.2 世界は新しいアイデアを求めている
「world is hungry for ideas 世界は新しいアイデアを求めている。だから、恐れずに作品を作り続けるべきだ。」
彼は、テクノロジーや社会の変化に流されるのではなく、アーティストとして「自分のやりたいこと」を追求することが重要だと説いた。
8. まとめ:リーバーマンのアートの本質
リーバーマン氏の講義からわかるのは、「コードを使った表現は単なる技術ではなく、文化そのものだ」という信念である。彼は、プログラミングを通じてアートを生み出し、体験としての芸術を追求し続けている。
彼の作品は、単なる視覚的な美しさを超え、「体験」と「対話」を生み出すことを目的としている。そして、それこそが、彼の創作活動の真髄である。